勇者を任命してしまった王の物語

――王だけがバカな世界――


魔王が復活した。

王国は即座に対応に入った。
軍は動員準備、学者は魔王の再出現条件を整理し、
神殿は勇者選定の儀式を進めた。

問題は、最終決定権が王にあったことだけだった。


王・ルルルルル三世は、勇者候補名簿を受け取った。

名簿には仮入力のままの名前が並んでいた。

  • あああああ
  • いいいいい
  • ううううう
  • えええええ
  • おおおおお

重臣が説明する。

「正式名は後ほど修正可能です。
 本来は適性と資質で――」

王は途中で遮った。

「待て」

そして名簿を指さした。

「あああああが良い」


「理由を伺っても?」

「一番最初に書いてある」

「並び順は入力順です」

「最初は縁起が良い」

それ以上の議論は成立しなかった。


こうして勇者あああああは任命された。

本人は辞退を申し出たが、
王命という一点で却下された。


旅の途中、勇者一行は順当に苦戦した。

判断は常識的、行動は慎重、
撤退すべき時は撤退した。

その結果、時間はかかったが生存率は高かった。

王への報告だけが、なぜか歪んで解釈された。

「勇者は逃げています」

「慎重でよい」

「宝箱を開けません」

「賢い」

「戦闘を避けています」

「勇者の風格だ」


最終的に、勇者一行は魔王城へ到達した。

魔王は万全の準備を整えていた。
結界、罠、反射障壁。

魔王自身もそれを把握していたが、
戦闘中、位置取りを誤った。

放った魔法は反射され、
回避が間に合わなかった。

魔王は自滅した。


勝利の報告を受けた王は満足した。

「やはり、あああああだったな」

重臣たちは静かにうなずいた。
議論は不要だった。


後年、歴史書にはこう記される。

勇者あああああは、
特別に優れていたわけではない。

王ルルルル三世も、
特別に賢かったわけではない。

だが、世界は救われた。

注釈には一行だけ添えられている。

※この王の判断を再現してはならない。